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2019/04/09(火) - 2019/04/27(土)

蔵 真墨写真展 「パンモゴッソヨ? Summertime in Busan」

終了しました
  • Exhibition

©Masumi Kura

このたび、蔵 真墨 写真展「パンモゴッソヨ? Summertime in Busan」を、2019年4月9日(火)〜4月27日(土)までふげん社にて開催します。

お伊勢参りに見立て東京から関西までストリートスナップ巡礼したシリーズ「蔵のお伊勢参り」や、21 世紀の男性像を撮影した「Men are Beautiful」などで知られる写真家 蔵 真墨による3年ぶりの新作写真展です。本展では、蔵が2017年夏にアーティスト・イ ン・レジデンスで約3ヶ月間韓国・釜山に滞在した際に撮影したモノクローム写真約 30 点 を展示いたします。

蔵は、現地で「お元気?」を意味する挨拶が、「パンモゴッソヨ?」=「ごはん食べた?」であることに着目しました。ごはんが最重要事項であり新鮮な海鮮を食べ、静かな海を眺めがら過ごしている人々に、まるで親戚のような親近感を覚えました。「メディアやネットにやたらと現れる風景」とは対称的な人生の夏休みのような穏やかな日々の中で、光り 輝く釜山の日常風景を撮りおさめました。

会期中には、東京都写真美術館で開催された『愛について アジアン・コンテンポラリー』 に出展し注目を集めた在日コリアンの写真家・金仁淑(キム・インスク)さんと韓国の風土への印象を語り合うトークショー、長年蔵の作品を見続けている元東京都写真美術館学芸員であり現在ブリヂストン美術館副館長である笠原美智子さんとのトークショーを開催いたします。
韓国と日本の文化や歴史のあらゆる差異や確執は、生物にとって不可欠な「食べること」を目の前にしては、二の次になります。それはどの国にいても、どんな育ち方をしても人間であれば同じです。日韓の差異ではなく同質性に目を向けた作家の、釜山の街角に降り注ぐ陽射しのようにあたたかな眼差しを感じていただければ幸いです。

時差がないほど近い隣の国であるのだから何度でも訪れたい」-蔵 真墨

 

■開催概要

蔵 真墨写真展「パンモゴッソヨ? Summertime in Busan」

2019年4月9日(火)〜4月27日(土)

火〜金 12:00〜19:00

土 12:00〜17:00

休廊日:日・月

会場:コミュニケーションギャラリーふげん社

〒104-0045 東京都中央区築地 1-8-4 築地ガーデンビル 2F

TEL:03-6264-3665 MAIL:info@fugensha.jp

協力: BankART1929、釜山文化財団、ホンティアートセンター

 

●4月13日(土)14:00〜(パーティ〜17:00)

金仁淑(写真家)×蔵 真墨ギャラリートーク+レセプションパーティ

●4月27日(土)14:00〜15:30

笠原美智子(ブリヂストン美術館副館長)×蔵 真墨 ギャラリートーク

※イベントの詳細は下部にあります。

 

蔵真墨の釜山
笠原美智子 (石橋財団ブリヂストン美術館副館長)

ストリート・スナップの名手である蔵真墨の新作である。被写体は「釜山」。
写真史を少しでも紐解けば、ストリート・スナップは写真をメディアとして選択したアーティストが最も好んできた手法であることがわかる。写真家でなくとも、特にスマートフォンというカメラ付きコンピュータを多くの人が持ち歩いている現在、誰もが日常的にスナップ写真を撮っている。いわば、写真の王道とも言うべき表現手段だけれど、しかしだからこそ難しいのだと思う。
『蔵のお伊勢参り』、『Men are Beautiful』等々、数々のストリート・スナップを発表してきた彼女の新作には、蔵真墨のスナップの特徴が鮮明に表れている。
今回の作品は蔵真墨には珍しくモノクロ写真で、前に一度訪れてすっかり好きになったという釜山に三ヶ月滞在する機会を得て制作されたものである。彼女は釜山を、それは愛おしそうに撮っている。毎日散歩したという海岸を歩くカップルの後ろ姿や路地に茣蓙を敷いて花札に興じるおばさんたち、繁華街の歩道に腰掛け娘の髪型を直す母親や蜜柑売りの三輪車、唐辛子を漬けている大きな瓶、イカの干物や西瓜、段ボールを積んだ荷車をひく夫婦等々、そうしたストリート・スナップに、これも彼女にしては珍しく、海で拾った貝殻や草花のフォトグラムが挿入されて、彼女のスナップのさりげなさと場所への思いを際立たせている。
蔵真墨のストリート・スナップは、いわば、被写体となる人々や場所や土地の「お邪魔にならないように」、「撮らせていただいている」という姿勢を貫いたものだ。場所の歴史や言葉を学び、人々の日常や気候や風土にふれ、寄り添うようにして撮っている。そしてそれでもそうした写真行為が、時に撮る対象を不快にさせ望まない結果をもたらすこともあることも、そもそも撮影が被写体のためではなく、自分の歩を進めるためのものだということも自覚している。
彼女はこのシリーズに〈パンモゴッソヨ〉と付けた。ハングルで「ごはん食べた?」という意味で、挨拶代わりの言葉だという。「お元気?」という代わりに「ごはん食べた?」と声をかける釜山の土地柄の一端が滲み出ている作品である。

 

■ 作家ステートメント

パンモゴッソヨ? Summertime in Busan

釜山とは韓国の南東部にある都市で、九州の福岡からほど近い。国内第二の都市であること、 人々がユーモアを愛することから大阪と似ていると言われることが多い。私は2015年に個展を 開く機会に恵まれ初めて釜山を訪れた。桜の季節で、静かな海を眺めて、新鮮な海鮮を食べ、同じ時間を共有した人々が親戚のように感じられた。(家族というべきかもしれないが、家族とは複雑な別問題で、拙作『氷見』を参照されたい。)なんと素晴らしい場所が地球上のこんな近くにあったのだろうか。また訪れたい、そしてゆっくり写真を撮りたいと思った。

日々は何かと慌ただしく過ぎていくものだが私は釜山のことを忘れなかった。横浜の BankARTが釜山を含む世界の都市へアーティストをおくるレジデンスプログラムを行っており、続・朝鮮通信使という韓国を訪ねるプロジェクトも行っていた。それらの活動の一環で2017年の夏に3ヶ月間、私は釜山で滞在制作をできることになった。私が滞在したホンティアートセンターは海の近くにあり、朝は海辺を散歩し、日中は明るく広いスタジオでお気に入りの写 真集を眺め、梅雨寒の夜は部屋のオンドル(床暖房)をつけて読書した。人生の夏休みのような日々だった。写真に疲れて、写真で休む。写真がパートナーになって短くはない時間が過ぎたが、おかげさまでなにかと忙しい日々だった。

すこしばかりは韓国語の勉強もした。韓国語に「パンモゴッソヨ?」という挨拶がある。意 味するところは「お元気?」という程度のくだけたものだが「ごはん(パン)食べ(モグ)た?」 というのが直接の意味である。日本であれば天候の話などするところだが、韓国では「ごはん」、それが最重要事項なのである。最近若い世代ではあまり使われない言い方だとも聞いたが、釜山にいると英語で話していても日本語を介していても、年上の人も年下の人も、人々は私の顔を見ると必ず「ごはん食べた?」「何食べた?」「どこで食べた?」と声をかけてくれた。食が大事と言えば楽しげにも聞こえるが、物資が不足し食べ物を分けあっていた時代の名残なのだろうかと思うと感慨深い。

釜山の中心市街に光復路というショッピングストリートがある。通りには世界中の主要都市と同様に世界的ブランドの店が立ち並んでいるが、さて光復とは日本から解放され光を取り戻したという意で8月15日は光復節という祝日である。私はその日、すこし緊張して光復路を訪れた。通りを歩けば人々は単純に休日を楽しんでいるようだった。このエリアは露天商、特に食べ物の屋台が多く、いつもどおり、売る人、買う人、食べる人で賑わっていた。日本からの観光客の声も多く聞こえた。ちょっと涼みにスターバックスに入ると若い女性のグループが夢中でセルフィーを撮りSNSにアップしている。なんと豊かで穏やかな現代の釜山であることか。それはメディアやネットにやたらと現れる風景とは異なっていた。それでも街を歩いているとふと釜山の受難と混乱の歴史、その中で生きた人々のことが想われる場所がそこここにあり、ふとこみあげてくるもので眼前の日常風景が文字通り光り輝くものに見えてきた。

釜山は魅力の多い街でまだ写真に収めきれてはいない。今度滞在するなら秋はどうだろうかと考えている。短い滞在をしたチェジュ島も素晴らしく、ゆっくりその風土を確認しながら写真を撮りたい。時差がないほど近い隣の国であるのだから何度でも訪れたい。

蔵 真墨 2019年 初春

 

©Masumi Kura

©Masumi Kura

 

■作家プロフィール

蔵 真墨(くら ますみ)

1975 年 富山県生まれ

1998 年 同志社大学文学部英文学科卒業

2001 年 東京ビジュアルアーツ写真学科に学ぶ

[主な個展]

2017 年 「Men are Beautiful」ビジュアルアーツギャラリー、大阪
2016 年 「Men are Beautiful」、 nap gallery、東京
2015 年 「Adventures of Kura」BMW PHOTO SPACE、釜山、韓国
2014 年 「Men are Beautiful」ユミコチバアソシエイツ、東京
2013 年 「福イケメン!-明日の記憶」ふく+、福井
「氷見」中京大学アートギャラリー C・スクエア、愛知
「イ・ケ・メ・ン」ツァイト・フォト・サロン、東京
2012 年 「kura」ビジュアルアーツギャラリー、大阪
2011 年 「蔵のお伊勢参り、其の七!京都・大阪」ツァイト・フォト・サロン、東京
2010 年 「蔵のお伊勢参り、其の六 近江の国」ギャラリー街道リぼん、東京
「蔵のお伊勢参り、其の五 二川から伊勢!」ツァイト・フォト・サロン、東京
2005 年 「蔵のお伊勢参り、其の四 金谷から白須賀」PLACE M、東京
2004 年 「蔵のお伊勢参り、其の一 日本橋から川崎」photographers’ gallery、東京
2002 年 「love machine」photographers’ gallery、東京
2001 年 写真人間の街プロジェクト「東京―大阪」ガーディアン・ガーデン、東京

[主なグループ展]

2016 年 「Japanese Photography from Postwar to Now」サンフランシスコ近代美術館、 サンフランシスコ、アメリカ
「テグ・フォト・ビエンナーレ 2016」大邱、韓国
「表現する女たち – 6人の眼差し – 」ツァイト・フォト・サロン、東京
2015 年 「FOUR FROM JAPAN: CONTEMPORARY PHOTOGRAPHY」 コンデナストギャラリー、ニューヨーク、アメリカ
2012 年 「この世界とわたしのどこか 日本の新進作家 vol.11」東京都写真美術館、東京
「パラレル・ヴィジョンズ:日本と韓国の現代写真」香港藝術中心、香港
「PORTRAITS」日本橋高島屋美術画廊 X、東京
2011 年 「第 10 回フォトシティさがみはら プロの部入賞作品展」 新宿ニコンサロン、東京
2010 年 「フォトシティさがみはら 2010 受賞作写真展」相模原市民ギャラリー、神奈川
2008 年 「写★新世界 ―パリ、ニューヨーク、東京、そして上海―」 せんだいメディアテーク、宮城
2007 年 「Japan Caught by Camera-Works from the Photographic Art in Japan」 上海美術館、中国
2005 年 「現在のポートレイト」パルテノン多摩、東京 2004 年 上映会「この夜の恍惚と不安」space harappa、青森
「横濱写真館」BankART1929、神奈川
2003 年 「人臭(ヒトシュウ)―猫臭(ネコシュウ)に抗うその強烈な」 空間実験室、青森
「photographers’ gallery 展」中京大学アートギャラリー C・スクエア、愛知
2002 年 「フォトネシア・光の記憶 時の果実 photographers’ gallery 展」 前島アートセンター、沖縄
2001 年 「Opening Exhibition」 photographers’ gallery、東京

[受賞]
2010 第 10 回さがみはら写真新人奨励賞

[出版]
2016 年 『Men are Beautiful』Urgent Press
2013 年 『氷見』蒼穹舎
2011 年 『蔵のお伊勢参り』蒼穹舎
2010 年 『kura』蒼穹舎

[パブリック・コレクション]
東京都写真美術館
サンフランシスコ近代美術館
相模原市
上海美術館
沖縄県立博物館・美術館

 

■関連イベント

※イベントはご予約制です。ご予約は電話とメールで承っております。
TEL:03-6264-3665
Mail:event@fugensha.jp

 

●金仁淑(写真家)×蔵 真墨ギャラリートーク+レセプションパーティ

日時:4月13日(土)
トーク 14:00〜15:30
パーティ 〜17:00
参加費:1500円
※要予約

【ゲストプロフィール】
金仁淑(キム・インスク/KIM Insook)
1978 年大阪生まれ。在日コリアン 3 世。大阪樟蔭女子大学学芸学部被服学科およびビジュアルアーツ専門学校大阪写真学科を卒業後、韓国・ソウルの漢城大学芸術大学院西洋画科 写真映像コースに留学し、2005 年に同大学院修了。現在、ソウルと東京を拠点に制作活動 を展開している。大阪の朝鮮学校をテーマにした作品〈sweet hours〉( 2001 年- )や、在 日コリアンの家族の肖像〈サイエソ:はざまから〉(2008 年- )、炭鉱夫と看護師として韓 国からドイツへ移民した人々の肖像〈Between Breads and Noodles〉( 2014 年)など、いくつもの文化の狭間に生きる人々のアイデンティティや、コミュニティ、民族、家族の問題を浮き彫りにしている。国内外の芸術祭やグループ展への招聘も多く、主な展覧会に個 展「 sweet hours」(光州市立美術館、 2008 年)、個展「少年から少年たちへ:Continuous way」 (ミオフォトアワードプライム、2014 年)、「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見 る世界」(森美術館他、2014-15 年)、 「Family Report」(京畿道美術館、 2017 年)、「愛 について アジアン・コンテンポラリー」(東京都写真美術館、2018 年)など。

 

●笠原美智子(ブリヂストン美術館副館長)×蔵 真墨 ギャラリートーク

日時:4月27日(土)14:00〜15:30
参加費:1500円(1ドリンク付)
※要予約

【ゲストプロフィール】
笠原 美智子
1957 年長野県生まれ。1983 年明治学院大学社会学部社会学科卒業。87 年シカゴ・コロン
ビア大学大学院修士課程修了(写真専攻)。東京都写真美術館、東京都現代美術館で学芸員
を務め、現職は公益財団法人石橋財団ブリヂストン美術館副館長。日本で初めてのフェミ ニズムの視点からの企画展「私という未知へ向かって 現代女性セルフ・ポートレイト」展 (91 年)ほか、ジェンダーの視点からの展示を多数企画。著書に『ジェンダー写真論 1991– 2017』(里山社、 2018 年)ほか多数。