第1回すべてはここから始まった Fumi Sekine The origin of SATO Shintaro photographs—写真集『Geography』ができるまでディレクターの手記 2019.06.17 2019年6月25日から始まる写真展『Geography』にあわせ、同名の写真集をふげん社から出版いたします。 “The origin of SATO Shintaro photographs”は写真集『Geography』ができるまでの物語です。 佐藤信太郎さんは1969年東京生まれの写真家で、「東京」をテーマに長年作品を発表しています。非常階段から東京の暮れ方の官能的な風景を捉えた「非常階段東京」シリーズや、スカイツリーの出現によって変化する都市風景を現代の絵巻物のように表現した『東京|天空樹 Risen in the East』(青幻舎 2011年)のシリーズをご覧になったことがある方も多いのではないでしょうか。 ©SATO Shintaro 『非常階段東京―TOKYO TWILIGHT ZONE』より ©SATO Shintaro 『東京|天空樹 Risen in the East』より 佐藤信太郎さんの『Geography』シリーズは、今年2月に東麻布・PGIで開催された『The Origin of Tokyo』において、個展という形では初めて発表されました。 1992年に東京湾岸の埋め立て地の地面を大型カメラ8×10で撮影した本作は、かつて東京綜合写真専門学校の卒業制作として発表されたもので、佐藤さんの原点ともいえる作品です。 どこまでもイマジネーションが膨んでいくような抽象イメージは、地面を写しているけれども衛星写真のようにも見えます。深い緑のグラデーションや細部の造形を見つめていると不思議と心が落ち着くような気がします。 ©SATO Shintaro Geography1 この作品について、写真評論家の飯沢耕太郎さんはartscapeレビューにこう綴っています。 パノラマ作品とともに展示されていた佐藤の初期作品「Geography」は注目に値する。「平面を平面のまま撮る」というコンセプトで地表を撮影したシリーズだが、もう一度見直すと思わぬ発見がありそうだ。 この評を受け、6月にふげん社で個展を予定していた佐藤さんは、そこで「Geography」をあらためてフィーチャーすることを考えます。 前述のPGIの個展にあわせて発売された写真集『非常階段東京The Origin of Tokyo』(青幻舎 2019年)と、その前身『非常階段東京TOKYO TWILIGHT ZONE』(青幻舎 2008年)は、両方とも造本家の町口覚さんがデザインを手がけています。 ©SATO Shintaro 『非常階段東京 The Origin of Tokyo』より そこで、今回のGeographyのプロジェクトにも町口さんにぜひ関わっていただけないだろうかと、私たちは考えました。 2019年4月 match and companyにてGeographyシリーズを町口さんにご覧いただく 4月上旬、町口さんの事務所に伺い、展覧会にあわせた冊子作りにご協力いただけるかお話をしました。 実のところその時点で写真展まで2ヶ月しか時間がありませんでしたし、私たちは小冊子ができればいいと簡単に考えていたのですが、町口さんの考えはまったく違っていました。 「信太郎のオリジンなんだから、大事にしたほうがいいよ」 長年、写真家と正面から向き合いながら本作りに携わってきたプロフェッショナルから発せられた言葉を、私たちは重く受け止めました。 一人の写真家が作家として出発したこの作品を、最上の形で後世に残すべきであること。また、私たちは印刷会社として、出版社として、これからどんな本を作っていくべきかということ。 こうして、一気に「写真集」のプロジェクトに方向転換したのでした。 2019年4月 最初のミーティングにて。町口覚さんと佐藤信太郎さん。 写真集に収録するテキストは、このプロジェクトの発端となった評を書いてくださった飯沢耕太郎さんにお願いすることにしました。 飯沢さんからいただいた「東京の足元」というテキストには、佐藤さんが作家としての「スタートラインを引き直し」た作品であり、作家人生がここから始まり伸び広がっていったと書かれていました。この原稿を受け取った私たちは勇気付けられ、「本になる」と確信した瞬間でもありました。 佐藤はなぜこのような写真を撮り始めたのだろうか。それはその時点で、都市風景、とりわけ東京の風景こそが、その後の彼の最も重要な写真撮影の営みになっていくという予感があったからだろう。・・(中略)・・カメラを手に東京を巡り歩く彼の長い旅は、まさにその出発点となる、足元の「地面」を見つめ直すことから始まったのだ。 (写真集『Geography』収録テキスト・飯沢耕太郎「東京の足元」より) 一人の作家のオリジン(起源)を1冊の写真集にすることがとんとん拍子で決まっていき、今までに無いものが出来上がるという確信と、本当に写真展までに間に合うのだろうかという不安が同時にありました。各方面のプロフェッショナルのお力をお借りしながら、何としてもスペシャルな本を作り上げなければならない、と気が引き締まります。 そして、ここから怒涛の二ヶ月が始まったのです! >第二回につづく 《刊行情報》 佐藤信太郎『Geography』 500部限定 エディション・サイン入り 執筆:飯沢耕太郎 造本設計:町口覚 判型:370×263(B4変形) 頁数:66頁 製本:ハードカバー 発行年:2019.06 出版社:ふげん社 言語:日本語、英語 エディション:500 価格:¥10,800(税込) 6月24日(月)までにご予約の方は特別割引価格(¥9,000)で販売いたします。 ご注文いただいた方には、発売日6月25日から順次発送いたします。 ふげん社ストアで購入 shashashaで購入