私の国第4章 Beatrix Fife “Bix” THE LAND (日本語) 2020.02.22 ひどく疲れを感じていると同時に、とてもワクワクしていた私は、ピアノをひたすら引き続ける。私自身のリズムで、ゆっくりと弾きたいときには、ゆっくりと、そして止めたいときには止めてしまう。 もう何年もフルートを吹いてきたけれど、この頃は吹きたいと思わない。フルートは、部屋の一角にただ置きっぱなしになっている。この新しい環境で自分自身のリズムを見つけ出すことは、何か私の呼吸と関係のあることで、だからその呼吸をフルートに注ぎ込むことはできない。身体が疲れているのだ。 今は、木々や大地、雪といったものを、長い時間をかけてじっと見つめるようになっている。石や植物、人、犬の毛、雲のかたちといったものに目をとめ始める。春がきて、それから夏がくる。自分の周りの自然の静けさに耳を澄まし始める。木の葉のそよぐ音、雨の音、そして周囲の人々やものがたてる音と音の間に、より小さく、あるいはより大きく、様々に開かれた空間があることに気がつくようになる。少しずつだけれど、私の内側にある空間が開放されつつあるかのようだ。長い散歩に出かける。毎日、小さなものごとを観察するにつれ、私の目も耳も感覚も広く開いていって、そうしたものごとを取り入れていくのだ。森、公園、図書館、バスに乗っている人たち——その静けさを感じながら、より深く呼吸する。 私は大きな都市で育ったけれど、今ほど自然が私に訴えかけてきたことはなかった。 ここで人々が話す言葉には、長い間合いがある。最初にここにきたときには、その沈黙が私を落ち着かない気持ちにさせたものだ。だけど、それぞれの言語によって、あるいは人々や時と場所、そして取り巻く自然次第で、言葉と言葉の間合いには違いがあるのだということを今は理解している。 ある日、友人が海に浮かぶボートを描いた絵を嬉しそうに見せてくれた。その絵を見て、私はこう言う。 「素敵ね! 水彩画なの?」 「うん、そうだよ。ぼくはいつも水彩で描いているんだ。この水色は、まさにぼくが出したかった色だよ」 「海の水を描くのは、水……ということね」 「うん、そこがぼくには魅力なんだ。君も絵を描いてみたらどう?」 「私が? 絵を描いたことはないわ。兎やクリスマス・ツリーを描いたことがあるぐらい……。それに水彩画を描きたいとは思わない」 「どんなやり方でも好きなものを描けばいいんだ。自由にね……。絵を描くと、爽快な気持ちになるよ。それに、描いたものを誰かに見せる必要もない」 私はその絵を注意深く見つめる。無言で、息を吸っては、その息を吐きながら。 彼がこの絵を描いたのだから、私も自分の絵を描くことができるだろうと思う。彼は水色の隣にピンク色を塗っているけれど、私なら紫色を使うと思う。それに私なら、水彩よりもむしろ乾いた質感の鉛筆を使うだろう。その絵を見ていると突如として、自分の中にスイッチがあるような気がした。そして、そのスイッチを押すことに決める。おそらく、私もまた絵を描きたいのだろう。 「OK、試してみるわ」と、口に出してみる。 これは、私の人生をさらに先へと進める情熱への、まさに最初の一歩だった。それがなぜかは、次に書こうと思う。 アクリル・カンヴァスボード 31×41cm 来月に続く