私の国 第8章 Beatrix Fife “Bix” THE LAND (日本語) 2020.06.26 今、世界は突如として変わりつつある。 この文章を書いている間にも、ウイルスはいくつもの国境を越えて広がっている。多くの国や地域が封鎖され、地上に生きる私たち人類の行く手には、数々の環境問題や社会問題、そして巨大な課題と苦悩が待っている。 どうしたら、このことを考えずにいられようか。今、書いているこの連載が、かつての自分が絵を描くことを通して内なる自己の探求を始めたことをテーマにしているとしても。 当時の私は17歳の半ばで、育った国から自分の母国とされる国へと転居したところだった。そのために、子ども時代から築き上げてきた数々のもの、慣れ親しんだ言語や自然や気候、考え方や人間関係を手放すことになった。気づいてみると、それまで心の内側に築いてきたいくつもの「道しるべ」をなくしてしまっていた。 今日、多くの人々が仕事や愛する者を失い、健康を害し、また安定した生活を奪われている。この新しい世界で、自らの道しるべをなくしてしまう人もいるだろう。私たちの誰もが、新たな挑戦を突きつけられ、新たな地平を見ている。海は大荒れだ。だが、どこかに水平線はある。絵のなかの水平線のように、人が見たいと思う限りは、それは常に必ずあるのだ。 絵を描き続けよう。ほかの画家たちの絵を見ながら、新しい手法を学びながら、旅をしながら、そしてまた自らの心の内を旅しながら、ずっと続けていこう。描いた絵の多くを捨て、手放しながら、あとで必要になる絵だけを残しておこう。 こうして残った絵が私の道しるべだ。そのときどき、自らがおかれた場所で、私という自己を映した小さな鏡なのだ。 アクリル・カンヴァスボード 41×31cm