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生きること、それは表現すること(地域からの風北九州篇に寄せて)

Fumi Sekine

2016.06.19

7月26日(火)からふげん社にて、昨年12月に開催し好評を博した「地域からの風」第二弾北九州篇を開催いたします。本イベントの企画は、ライターの南陀楼綾繁さんと、北九州市が発行するタウン誌「雲のうえ」のファンクラブ「雲のうえのしたで」のみなさんです。本イベントでは、北九州出身・在住の作家 畑たいむさんの画文集「北九州路地裏さんぽ」の原画展を中心に、北九州にまつわるメディアや人がふげん社に集います。

私はこのイベントに先駆けて、4月に北九州へ訪問してきました!福岡は北九州小倉にある、フェアトレードのお店&ブックカフェ「緑々(あおあお)」さんにて、4月15日(金)に開催された、畑たいむさんの画文集「北九州路地裏さんぽ」出版記念トークイベント「路地裏トーク」に参加するためです。「あおあお」店主の宮下緑さんは、「雲のうえのしたで」の編集委員のひとり。宮下さん、モビール作家のよしいいくえさん、イラストレーター・デザイナーの「ぱんとたまねぎ」林舞さん、という面々で、会報誌を発行したり、「雲のうえ」にまつわるイベントを企画されています。

「緑々あおあお」の店主宮下緑さん

若松、小倉という街

北九州は、門司市、小倉市、戸畑市、八幡市および若松市の、5つの市が合併してできた政令指定都市です。かつての市は現在そのまま区となっており、それぞれの個性は、合併したあとも健在です。世界遺産となった八幡製鐡所を中心として、北九州市は鉄鋼の町として栄えてきました。

南陀楼綾繁さん

ライターの南陀楼綾繁さん(「路地裏トーク」の聞き手として出演)と、北九州出身のモビール作家であるよしいいくえさんに、北九州の若松と小倉の街を案内していただきました。

モビール作家のよしいいくえさん

若松は、戸畑から洞海湾を隔てた場所にあります。若松へ渡るには、車で若戸大橋を渡るか、若戸渡船を使って移動します。この渡船は、車で移動できない学生や高齢者の日常の足として使われています。乗船時間5分未満、片道100円の旅です。私もこの小さな船旅を体験してみましたが、とてもよく晴れた日で、船のうえで風を受けてとても気持ちが良かったです。

若松側から若戸大橋をのぞむ

若松は、明治〜昭和初期、筑豊炭田から運ばれた石炭を積み出す日本一の石炭積出港として栄えました。石炭の積み下ろしをする港湾労働者は「ごんぞう」と呼ばれ、彼らのエネルギッシュな姿がこの街にはありました。石炭を運搬していた川や水辺が豊富であったからか、若松には河童の伝説もあります。若松の山「高塔山」には、「河童封じ地蔵」もあるとか。民俗学的にも面白い土地です。閑話休題、若松出身の芥川賞作家の、火野葦平の親も「ごんぞう」であり、その両親をモデルにして執筆された小説が『花と龍』です。

左の建物が「ごんぞう小屋」

火野葦平記念館は、地元を愛する方々によって作られました。若松で「山福印刷」を創業された山福康政さんも、その立ち上げに関わったお一人。印刷業の傍ら、「裏山書房」という出版業も営み、地元にまつわる絵や文章を残されています。かつて山福さんの絵を見た五木寛之が泣いて絶賛したほど。山福さんが主宰した「裏山書房」は、若松の文化と情報の発信地であり、市民の言論の中心と言っても過言ではなかったそうです。

山福康政さんの息子で「山福印刷」を継がれた山福康生さんによる手書きの看板

その山福康政さんのお嬢様が、現在木版画家として活躍されている山福朱実さんです。ふげん社でも昨年10月に、姜信子さんの新刊の原画展で、作品を展示させていただきました。今回の「地域からの風」では、山福朱実さんに畑さんとトークをしていただきます。

若松は、「労働者の街」という歴史を素地として、市井の人々がみな元気いっぱいで、仲間と一緒になって表現活動をしながら生きている街なのだという印象を受けました。「生きる」ことと「表現活動」が直結していて、みなさんとてもエネルギッシュ!この街にいて、人に触れると、自然と前向きなエネルギーがわいてくるような気がします。

小倉には「旦過市場」という古い市場もあり、お肉や野菜や和菓子まで、小さなお店が軒を連ねています。お店の人とも会話を楽しみながらのお買い物も楽しい。

詳しくは、なんだろうさんのご著書「ほんほん本の旅あるき」(産業編集センター)の北九州の頁をご覧ください。北九州若松・小倉の街の様子が仔細に書かれています。本著は、ふげん社にも置いてございます。

こんな路地もあります。映画のロケ地だとか。

 

畑さんの路地裏さんぽ

今回ふげん社で原画を展示していただく、畑たいむさんは、北九州ご出身の童画家・漫画家であり、「北九州市漫画ミュージアム」の初代館長でもあります。「北九州路地裏さんぽ」(リセット出版)は、「おいらの街」「リセット」などのタウン情報誌に13年間連載されていたものをまとめた画文集です。水彩で描かれた北九州の路地裏の優しく懐かしい風景に、見る者は郷愁を感じざるを得ません。

なんだろうさんとの「路地裏トーク」では、表通りには無い路地裏の魅力や、取材時の裏話などをお聞かせくださいました。路地裏を記録していくきっかけとなった、江戸時代からの古い宿場町の景観が残る宗像市へ転居されたお話、そして現在のご自身のアトリエ兼ギャラリーである「あぜのまち絵本美術館」を開設されたお話も興味深かったです。

「あぜのまち絵本美術館」は、福津市畦町宿という、江戸時代に唐津藩や福岡藩の藩主が参勤交代で通っていた唐津街道の宿場町に2014年にオープンしました。

トークの次の日に、館内を見学させていただきました。案内していただきながら、随所に施されたこだわりや、前の住人の暮らしぶりなど、畑さんのお話を楽しく聞かせていただきました。かつてツバメや蚕も心地よく暮らしていた築100年の古民家を、こだわりをもってご自身の手で改修された空間は、畑さんの作品の世界観と同じく、とても豊かな時間の流れとあたたかみを感じました。展示されている作品も、そんな温もりのある場所に飾ってもらえて、居心地が良さそうです。

「路地裏トーク」では、「北九州路地裏さんぽ」の原画も一部ご披露されました。水彩の原画は、とても深みのある色合いで、手書きの温かみもあいまって、作品としての存在感にほーっと思わずため息が出てしまいました。

この素晴らしい畑さんの原画が、前期後期あわせて40点、ふげん社にやってきます。貴重な機会ですので、みなさまぜひ足をお運びください。

最後に、畑たいむさんの「美の鼓動」出演時の動画です。美術館のようすがよく分かります。(2分半の映像)

 

ほとりの商店とやないけい、そしてよしいいくえ

「北九州路地裏さんぽ」にも描かれている、八幡東区河内貯水池のほとりにある「工房日々く」さんの「ほとりの商店」にも伺いました。「ほとりの商店」は、「工房日々く」さんの滋養たっぷりの薪石窯パンと、焼き菓子のお店です。

この河内ダムは、八幡製鉄所の工業用水のために作られました。そんなのどかな湖のほとりの森に、「ほとりの商店」はあります。可愛い看板と、木の小人が出迎えてくれて、誘われるままにお店へ。こじんまりとした店内に、美味しそうなパンと焼き菓子がずらり。やさしい手書きのポップを見て、思わず商品に手が伸びてしまいます。よしいさんのモビール作品や、「古本や檸檬」さんによる選書の本たちも販売しています。

「工房日々く」さんの旦那さまは、「やないけい」さんというシンガーソングライター。アコースティックギターとハーモニカで、日々の生活のおかしみやかなしみを曲にして奏でます。日常にとけこむ、ホッとする歌声と演奏です。ふげん社の店内でも夕方ごろに流れ始めます。「ねぎを切る〜」の歌がお気に入り。やないけいさんには、「地域からの風北九州篇」の会期中にライブをしていただきます。もちろん「工房日々く」さんの美味しい焼き菓子も販売しますよ!お楽しみに。

日常にとけこむような、人生のユーモアやペーソスを感じるのは、よしいいくえさんのモビール作品にも共通しているような気がします。愛嬌のあるモビールがふわふわと宙にただよう様子を見ていると、しょうもない自分の存在が許され、世界に優しくなれるような気がするんです。

よしいさんには、「地域からの風北九州篇」の会期中、モビールのワークショップを開催していただきます。「雲のうえのしたで」メンバーでデザイナーの「ぱんとたまねぎ」さんのオリジナルデザインの紙を使って、北九州をテーマにしたモビール製作をみなさんとおこないます。参加できる人数に限りがございますので、みなさんお早めにお申し込みくださいね。

やないけいさんが独特のふわっとしたコミュニケーションをとるなか、しっかり者の奥様が要所で突っ込みを入れて絶妙なかけあいを見せる素敵なご夫婦でした。

よしいいくえさん、 「美の鼓動」出演時の動画です。よしいさんの人となりが良くわかる映像になっています。

 

人情あふれる街

畑さん×なんだろうさんの「路地裏トーク」の後、店内では祝賀会が催されました。「緑々」の緑さんの美味しい手料理とお酒が出されて、どこからともなく地元の方々が集い、宴会が始まります。北九州の方々は、お酒がお強い。人が集まる場所が、大好き。外から来た私も、いつのまにか空気に馴染んで、その夜のひと時を楽しんでいました。旅の者もすんなりと受け入れてくれる、そんな懐の深さをこの街に感じました。

畑さんの「路地裏トーク」で、「若松の人は暖かい。わざわざ海を渡って来てくれたという思いがあるから」というお話がありましたが、本当にその通りです。ラーメン屋で隣になったおじさんしかり、道を尋ねたお姉さんにしかり、この街には、親切でウェルカムな方ばかり。

そして、みなさん、やっぱり地元が大好き!豪華な編集委員によってタウン誌「雲のうえ」が生まれること、その活動を応援する「雲のうえのしたで」というファンクラブができてしまうこと自体が、北九州の人間の地元愛を物語っています。みんなが一緒になって地元を盛り上げよう!表現している人たちを応援しよう!というネットワークが自然と構築されているところが、本当にすごいなあと思います。そんなすごいことが起きてしまうのが、北九州の街なんだと思います。

左からよしいいくえさん、畑たいむさん、なんだろうさん、宮下緑さん

一泊二日の短い旅でしたが、私はすっかり北九州の虜になって帰って来ました。

この人情溢れ、表現のエネルギーで充満した街の魅力を、より多くの人に伝えたいと思います。

7月8月は、築地に北九州の風が吹きます。ぜひ、みなさまにはこのイベントに足を運んでいただき、北九州のエネルギッシュな風を感じに来てください。築地でみなさまにお会いできるのを心よりお待ちしております。

ここまでご覧いただき、ありがとうございました。

2016.6.19 ふげん社店主

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地域からの風 北九州篇
畑たいむ『北九州路地裏さんぽ』原画展
北九州ブックフェア(選書「雲のうえのしたで」)

会期:
2016年7月26日(火)~8月27日(土)
日・月・祝休、8月11日(木)~15日(月)盆休み
※展示替えあり。盆休みを挟んで前期・後期各20点ずつ展示
火〜金 12:00〜19:00、土12:00〜17:00

会場:
コミュニケーションギャラリー ふげん社
〒104-0045 東京都中央区築地1-8-4 築地ガーデンビル 2F

 

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ふげん社店主