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⑧ロンドン篇:Photo Londonのオーガナイザーご夫婦との出会い、そして旅の総括

Fumi Sekine

2019.02.22

おかげさまで昨日2月15日の朝、帰国することができました。
これが最後のレポートになります。

パリ最終日は、ビートリックスさんのお知り合いの日仏ハーフでパリ在住のニーナさんとお会いしたり、オルセー美術館に行ってゴッホやゴーギャン、マネなど、美術史を彩る名品の数々を目に焼き付けたりしました。

 

翌11日、鉄道ユーロスターでロンドンまで移動しました。
欧州三都市目ですが、それぞれの街の印象の違いもはっきりと感じ取ることができとても面白いです。
パリから来ると、ロンドンの街はとても明るく感じます。パリは路地や街の雰囲気に陰影があったのですが、ロンドンは道が大きく開けてはっきりとしています。
パリは多様な人種が渦巻いており、文化背景の異なる人と隣り合わせで暮らしているため、おのずとコミュニケーションが重要となり、人々の会話がたいへん活発。良くも悪くもパリにはドラマが起きそうな気配が四六時中漂っています。ロンドンはほぼ英語で生活をスムーズに送れるということもあり、その「分かりやすさ」が明るい印象へと繋がったのかもしれません。

ロンドン二日目は、午前中からテート・ブリテンテート・モダンの美術館をめぐりました。無料で膨大なコレクションを見ることができ、英国の余裕を感じます。テムズ川の運行船でふたつのテートミュージアムをまわれるというのも素敵です。
テート・モダンからテムズ川にかかるミレニアム・ブリッジからの眺めが素晴らしかったです。

夕方、かつて宮殿であった建築を用いてアートカルチャーセンターとなった「サマセット・ハウス」でFariba FarshadさんとMichael Bensonさんのお二人にお会いすることができました。
お二人はPHOTO LONDONの創設ディレクターです。

パリで出会ったGalerie PolarisのオーナーBernard Utudian氏のご紹介で、この度のミーティングが叶いました。
お二人にやわらかな表情で迎えていただき、短い時間ではありましたが、Photo Londonがどのようなイベントか、日本の写真家をどのようにご覧になっているかなど、こちらの質問に丁寧に答えていただきました。

若手の日本写真家を支援する「Prix Pictet Japan Award」という国際写真賞をご存知でしょうか?お二人は、その賞のディレクターでもあります。過去に菊地智子さん(2015年受賞)、志賀理江子さん(2017年受賞)が受賞しています。次回は2020年初旬に予定されているそうです。

Prix Pictet」は、作品の芸術性だけでなく、サステナビリティー(地球の持続可能性)に対して強く問題提起するメッセージ性の高い作品が選ばれるそうです。

欧州三都市を巡り感じたことは、ヨーロッパは環境問題や健康に対する意識が高いこと。たとえば「BIOマーク」の交付やスーパーでのビニール袋の有償化などの制度が整っています。

思えば、この旅の始まりに出会ったフンデルトヴァッサーも自然を愛した作家で、ジャックリーヌさん、ババちゃんも自然をテーマにした作品制作をしていました。
ヨーロッパの人たちの自然環境への強い意識は、一人一人が意見を表明し発信する社会の構成員であるという自負の上に成り立っているのではないかと思います。

ヨーロッパと日本の、アートに対する意識の違いも、そこに端を発するのではないでしょうか。

私は、パリの、あのポンピドゥーの活気が忘れられません。
アートは、限られた天才による営為などではなく、誰しもに開かれているものです。
一人の人間から社会に投げかけられたその問い=作品は、私たち一人一人に対して投げかけられているのです。それに対して、どのような思い、意見、気持ちを抱くかは、それぞれの人に委ねられます。
アートはコミュニケーションです。
共に暮らす他者をより理解し、よりよい関係を築き、新しいものを生み出し未来を形作る。
言葉にはできないけれども、周縁にある小さい大事な数々をすくい取ってくれるのがアートです。コミュニケーションを円滑にするため、アートはとてもいい働きをしてくれます。

よりよい形で未来をつくっていくためには、一人一人の絶え間ない働きかけが必要です。コミュニケーションを諦めないこと。ひとりで完結しないで、他者に投げかけること。
この旅をとおし、アートの根源はそこにあるとつくづく感じました。

価値が確立された美術史上の英雄だけではなく、コンテンポラリーアート=今を生きる作家の声を聞くことにこそ、アートの真髄がある気がしています。

ふげん社は、アートを介した質の良いコミュニケーションの場を提供できるようにこれから努めていきたいと思います。

駆け足のレポートとなってしまいましたが、これで欧州三都市見聞録を終わります。

それぞれの地で出会った人々、私たちとヨーロッパを繋げてくださり今回の旅に献身的に協力してくださったBeatrix Fifeさん、日本でいつもふげん社へ足を運んでくださる皆様に感謝申し上げます。
お時間をいただきありがとうございました。

Fumi Sekine
Fumi Sekine プロフィール

ふげん社・ディレクター