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第12回 渋谷に訪れる斜陽 都市力と再開発の比例問題

新納 翔(にいろ・しょう)

2016.08.03

今月3日まで渋谷円山町で開催していた山谷地区の写真展「Another Side 2016 Ver.2 〜 消える山谷、拡散する山谷 」を開催していた関係で、普段は何かと避けていた渋谷に何回も出入りしていた。

2020年という1つのメドに向けて渋谷は大きく変わろうとしている。スクランブル交差点の向かいにあるキューフロント、東急ハンズ・・・いずれも再開発によって取り壊されるか、大きく変化する予定だ。渋谷の顔とも言える景色だけにその影響力は計り知れない。

失われる景色を記録しなくてはいけないと思いつつ、どうも時代錯誤な自分は109だのギャルだのという独特の渋谷文化が持つ雰囲気が苦手で、いわばその都市力に押し返されること度々であった。勝手に街から排他意識を持たれている、そう感じてしまうのだった。

例えて言えば、自分から見れば渋谷なんかより百倍、千倍も安全なドヤ街の内実を知らない人が見えないカーテンを感じてしまうのと同様の感覚だといえば分かってもらえるだろうか。

えてして「壁」というものは己の中で勝手に形成されるもの。しかしこのところ渋谷にいても居心地の悪さを感じなくなってきた。あれほど渋谷に近づけなかった自分がこうして撮影できているのは、明らかに都市力が変化しているのに間違いない。

 思えば去年、「アサヒカメラ」の特集で渋谷で近いうちに取り壊されるビルなりランドマークを撮影したことから「都市力の変化」は始まっていたのであろう。その時撮影した渋谷公会堂はもう更地になり、足を踏み入れることもできない。

 渋谷の都市力が徐々に弱まり限界レベルに達しようとしている。渋谷で20年にも渡りスナップを撮り続けている写真家・鈴木信彦氏も先日同じようなことを言っていた。

ギンギンにカッコイイ渋谷が、ここにある ― 20年間渋谷を撮り続けた写真家、鈴木信彦インタビュー

 まさに今、渋谷に斜陽が訪れようとしている。本来なら喜ばしいことなのだろうが、カオスだった渋谷に見えかけの「秩序」がじわじわと霧のように侵食しつつある。その霧は今まであった渋谷文化に馴染むことなく、人々が気付かぬところでひっそりと違うものにすり替えている。

 都市力、それはその都市だけが持つ言語化できない独特のファクター。そこに集う人々、ノイズ、交われない者にしか見えない壁。

 そんな中、先に述べた東急ハンズ、キューフロントビルが無くなったその景色を見てみたいと写真家として思う気持ちは隠せないでいる。1つ壊され、また1つ壊され見えてくる都市のあらわな姿。そうして仮面を剥がされた先に何が見えるのか楽しみでならない。

 それがこの「PeelingCity」の根幹にある我欲なのだ。

 

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新納 翔(にいろ・しょう)
新納 翔(にいろ・しょう) プロフィール

1982年横浜生まれ。 麻布学園卒、早稲田大学理工学部にて宇宙物理学専攻するも奈良原一高氏の作品に衝撃を受け、5年次中退、そのまま写真の道を志す。2009年より中藤毅彦氏が代表をつとめる新宿四ツ谷の自主ギャラリー「ニエプス」でメンバーとして2年間活動。以後、川崎市市民ミュージアムで講師を務めるなどしながら、消えゆく都市をテーマに東京を拠点として撮影を続け現在に至る。新潮社にて写真都市論の連載「東京デストロイ・マッピング」を持つなど、執筆活動も精力的に行なっている。写真集『PEELING CITY』を2017年ふげん社より刊行。