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④パリ篇:日本の詩人と心を通わせた写真家Jacqueline Salmonさん

Fumi Sekine

2019.02.22

現地時間2月8日17:45の投稿

ただいまパリの現地時間、2月8日午後6時です。
昨日2月7日は、私たちにとって初めてのパリの日で、たいへん素晴らしい体験をすることができました。
あまりにも印象が濃く、興奮のあまり神経も身体も疲労したのか、今日は半日ホテルで休みをとっています。
これから順を追って、ことのあらましを説明いたします。

ウィーンで会ったワイターさんのご友人の紹介で、写真家Jacqueline Salmonさんのアトリエに訪問することがかないました。

多国籍なレストランが立ち並ぶ落ち着いた街角に、ジャックリーンさんのアトリエはありました。
彼女はエレベーターの前で、あたたかい笑顔を携えて私たちがやってくるの待っていてくださいました。
著名な写真家とのミーティングに少なからず緊張していた私たちは、その笑顔を見て心が一瞬にして解けていくのが分かりました。
また、この日のパリはあたたかく気持ちのいい天気でした。大きな窓からふんだんに陽光が差し込んで、自然な光と影のコントラストが美しく映えるアトリエと、ジャックリーンさんのオープンマインドな心に、私たちは一瞬にして魅了されたのです。

ジャックリーンさんは、まず一冊の写真集を私たちに見せてくださいました。
去年出版した”Un soleil déjà oblique Variations sur 40 poèmes de Misuzu Kaneko”(直訳:金子みすずによる40の詩のすでに斜めの太陽の変奏曲)という本です。


金子みすずの詩にインスパイアを受けたジャックリーンさんは、金子みすずが暮らしていた山口県長門市に訪れ、詩作の源泉となったであろう、彼女の目線の先にあった風景を撮り収めました。
金子みすずの40の詩(日本語とフランス語で掲載)と、写真、そして詩人に関する資料と、ジャックリーンさんの旅日記が一冊に収められています。

ジャックリーンさんの詩的な写真と金子みすずの世界がマッチした素晴らしい写真集でした。良い作品には、言葉でも、写真でも詩情がこもっています。100年前の日本の小さな村に生きた詩人と、現代のフランスに生きる写真家、そのふたつの「詩人の心」は時代を超え、国境を越えて、繋がりました。その事実に、芸術がもつ、しなやかなパワーを感じます。

2016年に出版された”DU VENT, DU CIEL, ET DE LA MER…”(日本語直訳は「風、空、そして海…」)は、ジャックリーんさんが捉えた大自然が織なすさまざまな表情に、世界各地の美術館や博物館で収集した100年以上前の天気記号や海と空の絵画などを重ね合わせ、壮大な視点で、しかし繊細に編まれた本です。

水平線に浮かぶ太陽、雲のダイナミズム、山のプロフィール、ミクロな砂の世界にある宇宙などの図像は、この世に存在するすべての創造物へのリスペクトを感じます。
そこに収録されている作品のひとつには、空と雲のイメージの上に作家が風の向きを読みながら、感じるままに風向の矢印をペンで書き込んでいったシリーズがあります。オリジナルプリントも見せていただきました。
それを見て、彼女はまるで万物の声の翻訳者のようだと思いました。

思えば、金子みすずも、魚や植物や鳥や虫など、かそけきものの声に、耳を傾け、子どものような純粋な感性でその声をあらわしたひとでした。
彼女がみすずと心を通わせた理由が、この作品を見てとてもよく分かった気がします。

 

彼女とのミーティングは約2時間、楽しい時間はあっという間にすぎてしまいました。
短い時間でしたが、彼女は次から次へとオリジナルプリントや額装作品を惜しみなく見せてくださいました。

一流アーティストのオープンマインドとフェアネスを肌で感じることができ、私たちはいたく感動しました。

ジャックリーンさんは、オリジナルプリントの作品を和紙にプリントしたり、掛け軸のような形に作品を加工するなど、日本文化から多くインスパイアを受けているようでした。
しかし、まだ日本で展覧会をやったことがないとのこと。
ぜひ彼女の作品や写真集を日本で紹介する機会を模索したいと思います。

さて、これが半日に遭った出来事ということに驚きを隠せません。
午後にも素晴らしい出会いがありました。
それはまた後日レポートいたします。

Fumi Sekine
Fumi Sekine プロフィール

ふげん社・ディレクター