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第3回
現場がひとつになる【印刷篇】

Fumi Sekine

2019.06.20

2019年6月25日から始まる写真展『Geography』にあわせ、同名の写真集をふげん社から出版いたします。

“The origin of SATO Shintaro photographs”は写真集『Geography』ができるまでの物語です。

前回までの記事は下記からご覧ください。

第1回 すべてはここから始まった

第2回 天から降りてきた造本設計

 

造本設計の方向性が決定してからすぐに、ふげん社の運営元である渡辺美術印刷株式会社の工場長、生産管理部長、製版会社、版元、写真集『Geography』の制作に携わる人びとが、町口さんの事務所に集いました。

 

町口さんの事務所Match and Companyには、色評価灯で照らされているミーティングスペースがあります。これは印刷の現場と同じ環境で印刷物の色調などを確認するためです。町口さんの現場へのリスペクトを感じる空間です。

 

そこで、佐藤信太郎さんの作品の変遷や、今回本を作ることになった経緯などをお話ししてくださいました。落語か講談か・・・そんな町口節で語られるストーリーに、皆が一気に引き込まれていくのが分かります。

 

そのあと、作家が作成した色見本のプリントを見ながら、どのように製版処理をするか、校正の段取りなどをみんなで話し合いました。

デジタルデータのRGB色域から、印刷用にCMYK色域に変換したデータを色見本と同じように印刷するためには、製版や色校正は重要なポイントです。

今回は本機校正を採用しました。デジタル校正よりコストはもちろんかかりますが、本番の印刷と同じオフセット機で校正をとることで、より精度の高い製版が可能になります。

 

1回の本機校正、2度の製版作業を経て、5月末の印刷立会い当日となりました。

ほぼ徹夜の状態で早朝の浦和駅に現れた町口さん。

 

第2回の記事で造本のポイントとして解説した、表紙の特色印刷から始まりました。Geography1〜6の模様が連なってレイアウトされている、この一冊を体現する重要な部分です。

現場と相談しながら特色の配合を決めたい、という町口さんたっての希望で、まずはミーティングからスタート。

ミーティングに入った途端に町口さんのモードが切り替わり、町口劇場が開幕。これから自分たちが携わる写真集はアート作品であり、それには現場の協力が不可欠であるということ、佐藤さんの作品世界についてなど、熱い口上に一気に現場の士気が上がるのを感じました。

町口さんが持参したイメージ図をもとに、どのような色を混ぜればいいかを話し合った結果、写真集のメインカラーである草(緑)、シルバー、スミ、メジューム(色を引き延ばすインク)を混ぜることになりました。

その場ですぐにインクを手作業で練り、印刷をします。

何度かインクを調整して印刷、を繰り返し、ついに町口さんのOKをいただきました。

少しシルバーが入っているので、本を傾けると印刷した模様が浮き出て、表情がガラッと変わります。かっこいい!大満足の仕上がりです。


↑特色は手作業で練りました。これは袋とじ中面の赤色を作っているところです。

2台目以降はいよいよ本文の写真ページ。ここから佐藤さんも参加して、立会いをしていきます。製版の指示が上手くいったおかげか、全台スムーズにOKが出ました。

最後にシルバーインクのテキストページの印刷もOKが出て、予定よりずいぶん早く終了することができました。

立会いの待ち時間には、町口さんから紙の原材料の木材を生産している北海道まで赴いた話、製紙工場を見学した話を伺い、大変印象的でした。

 

町口さんの造本設計は、紙の生産現場から書店員まで、すべてが一本の線でつながっています。それは、町口さんが現場の職人たちと出会い語りあうことによって、1冊の本に関わる異業種の人々が「美しい本を世に送り出す」という一点の目標を見つめるからではないでしょうか。

本が出来上がるまでにはたくさんの異なる部門が連携しなければなりません。高品質なアートブックを作るためには、連携の調整が必要不可欠です。そのため町口さんは現場との交流の機会を意識的にもっておられるのだと思います。

1冊の本が出来上がるまでに、どれだけの人間が、技術や時間や労力を注いだのか。

情報のデジタル化がますます進んでいく時代に、本というメディアに携わる者として、1冊の本が生むストーリーを伝えていくことの重要性を、町口さんから学んだような気がします。

なぜかタオルを肩にかけて印刷立会いに望んでいた町口さん。現場ヘ向かう気迫はさながら試合に臨むボクサーのようでした。。

>次回は製本工程!

Fumi Sekine
Fumi Sekine プロフィール

ふげん社・ディレクター