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第2回 古町の「昔といま」をつなげる人たち 【新潟県新潟市古町】

2019.02.01

鏡淵九六郎編『新潟古老雑話』

日和山五合目(発行)、新潟雪書房(発売) 2016年

 

2010年の年末、思い立って新潟市に行った。そこで会ったのが、〈北書店〉の佐藤雄一さんと「にいがた空艸舎」という活動をしていた亀貝太治さんだった。佐藤さんは新潟市の中心地である古町で110年続いた老舗書店〈北光社〉の最後の店長で、この年1月に同店が閉店すると、4月には市役所近くに北書店を開業したところだった。

学校町通で開催される一箱古本市in現代市

この二人が中心となって「ニイガタブックライト」を結成し、翌年6月に北書店からほど近い学校町通で「一箱古本市in現代市(いまいち)」を開催。この辺の経緯は、拙著『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)に詳しい。

私は毎年6月の一箱古本市には毎回参加し、それ以外にも機会があれば新潟を訪れている。そのたびに北書店に寄ったり、市立中央図書館の郷土資料室に行ったりして、新潟に関する本や雑誌を見てきた。横浜、神戸、長崎、函館と並び、幕末に開港した五都市のひとつであるだけに、新潟には出版文化の蓄積があると感じている。

『新潟古老雑話』(新潟 温古會)

今回紹介する『新潟古老雑話』は、1933年(昭和8)に元版が発行されている。その後、1991年と2016年に復刻版が出された。私が北書店で買ったのは後者だ。

この本は、新潟の郷土史家・鏡淵九六郎(1869~1940)が、地元の古老に聞き書きしたエピソードをまとめたもの。跋文にはこうある(以下、旧字を適宜直して引用する)。

「書中収むる所は殆んど新潟市の過去一切に亘り、世相の推移、人事の興亡、風俗の変遷、花柳界の盛衰、大事件の終結、天変地異の惨害、妖怪狐狸の出没をはじめ、戦争の余沫、刑場の光景、さては芸術娯楽の種類、偉人、名士、閨秀、傑僧、其他あらゆる方面に及んで、(略)一読髣髴として往時の状態そのままの新潟市を読むものの眼前に再現せしむる魅力がある」

全体は20章に分けられており、160以上の話が収められている。章ごとに読むのでもいいし、「天狗にさらはれた話」「白崎屋の兄殺し」など興味を引くタイトルから読んでもいい。
話者の多くはこの時点で70代、80代であり、彼らは江戸時代末期に生まれている。だから、自らの目で見た戊辰戦争の戦闘の様子を生々しく語ることができるのだ。ほかにも面白いエピソードが多く、どれから紹介していいか迷うほどだ。
本書でもっとも多く登場するエリアは、古町である。江戸初期に形成され、西側の白山神社から東に向かって長い通りが続いている。長らく新潟の中心商店街だったが、近年では信濃川対岸の万代に繁華街の位置を奪われつつある。

古町は江戸時代から花街として栄えた。藤村誠『古町芸妓物語 新潟の花街』(新潟日報事業社)によれば、新潟の遊郭は全国屈指の「遊所」として知られており、そのにぎわいは明治も続いたという。

 

新潟のもうひとつの名物が、火事だった。『新潟古老雑話』には、「寺だけでも三十ヶ寺が焼失した」という1880年(明治13)の大火をはじめ、「その頃は新潟と云へば火事を連想する程頻々あつて、古町あたりでは家を建てるにも五年に一回は必ず焼けるものと覚悟して造つた」とある。

火事が起こると、商店や遊郭は別の場所に移転し、新しい通りを形成した。そしてまた火事が起こると、別の場所へ。そのスクラップ&ビルドの繰り返しが、現在の古町をつくってきたと云えるだろう。

万代橋から信濃川を見下ろす。左手が古町、右前方が沼垂

本書に古町と並んで多く登場するのが、沼垂(ぬったり)というエリア。新潟駅の東側にあり、市内の中心である万代橋と古町をつなぐ線から外れている。そのため、私もしばらくはそんな町があることを知らなかった。

しかし、沼垂は『日本書紀』に「渟足柵(ぬたりのさく)」として出てくるほど古い土地であり、いまでも多くの寺社が残っている。本書には、1914年(大正3)に新潟市と合併する以前の沼垂の様子を語るエピソードが多く収録されている。

なかでも面白いのが、「爆裂弾事件」という物騒なタイトルの話だ。1897年(明治30)11月12日午前4時、「轟然たる音響で、枕頭の戸障子が振動した。(略)しばらくして十数町隔たつた馬越のガード橋辺にも恐ろしい地響きがした」。これは、沼垂に建設中の停車場をめぐって新潟市と沼垂町が対立し、新潟側の過激派が「栗ノ木川鉄橋、沼垂仮駅の貨物庫及び機関庫に爆弾を仕掛け、爆破させて一部に損害を与えたのだった」(朝日新聞新潟支局編『越後の停車場』朝日新聞社)。この犯人のひとりである桜井市作は、のちに新潟市長になっているというのだからすごい。

近年の沼垂はさびしい町になっていたが、2015年に閉鎖した市場の建物をリノベーションし、「沼垂テラス商店街」に生まれ変わった。その後、この町は大きく変化している。

日和山。中腹にカフェ〈日和山五合目〉がある

『新潟古老雑話』の2016年復刻版を発行したのは、野内隆裕さん。「路地連新潟」の代表として市内の小路をめぐる地図をつくり、新潟市街を見下ろす日和山に〈日和山五合目〉というカフェをオープンした。こんなシブい本を復刻するのはご老人だと思い込んでいたが、先日初めて会った野内さんは私と同世代の1968年生まれで、背が高く精悍なひとだった。

その野内さんが提供した、1926年(大正15)の新潟市の地図をアルバムの中ジャケットに使ったのが、新潟の4人組アイドルグループRYUTist(リューティスト)だ。

RYUTistのサードアルバム『柳都芸妓』。タワーレコード内のPENGUIN DISCより発売

古町を活性化する目的で2011年5月にオーディション、7月にデビューライブを行なっているから、ニイガタブックライトとほぼ同時期に誕生しているのだ。その後、毎週末の古町でのライブをはじめ、新潟各地のイベントやお祭りに出演してきた。

私がこのグループを知ったのは、今年の6月の一箱古本市のとき。メンバーの一人が北書店の店番をするという企画があったのだ。それがきっかけで、彼女たちの音楽を聴いてすっかりファンになった。例の地図が使われた新アルバム『柳都芸妓』には、古町の小路の名前が折り込まれた曲も入っており、新潟で活動する作曲家やミュージシャンがバックを固めている。私にはメンバーとスタッフが本気で、かつての古町をにぎわせた芸妓の伝統を、いまに受け継ごうとしているように思える。

ちなみに、RYUTistの『夏の魔法』に「注意! 『浜茶屋』は方言!!」という歌詞がある。新潟を含む北陸では、海の家を「浜茶屋」と呼ぶのだ。『新潟古老雑話』には、「浜茶屋の始め」という項があり、「明治二十六七年頃、俗称桶屋さんと呼ばれた人が横門前突出しと、日和山筋の間に浜茶屋を掛出したのが元祖」と書かれている。

いまの私には、この「横門前突出し」がどこのことなのか見当がつかないが、新潟の町を歩いたり本を読んだりするうちに、「ここか!」と判る日が来るだろう。それが、郷土史を読む楽しみのひとつなのである。

 

(文・写真 南陀楼綾繁)

南陀楼綾繁
南陀楼綾繁 プロフィール

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。

早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。

出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。

2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)などがある