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[PeelingCity_book #3]飯沢耕太郎さんを訪ねた夜のこと

Fumi Sekine

2017.09.24

2017.7.20 写真集食堂めぐたまにて

こんにちは。昨日から一気に気温が下がりましたね。金木犀の香りがさわやかな季節となりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

近いうちに更新すると言っておきながら、トホホなおサボりブログとなってしまいました・・・。

写真集『PEELING CITY』は、おかげさまで9月26日(火)に無事に発売日を迎え、ただいま10月7日(土)まで築地・ふげん社ギャラリーにて刊行記念展を絶賛開催中です。

本日10月6日(金)夜7時には、写真評論家の飯沢耕太郎さんと新納翔さんのトークイベントと、刊行記念パーティを開催します。

飯沢さんには、この度写真集にテキストをご執筆いただきました。

編集段階のものを飯沢さんにお見せする機会がありご助言を得たことで、大幅にレイアウトの改善をすることができました。

そして7月12日の夜、飯沢耕太郎さんの蔵書約五千冊が並ぶおうちごはんのお店である恵比寿「写真集めぐたま」にて、編集を一通り終えたものをご覧いただくことができました。

今回は、その時のことを少し書いてみようと思います。

●写真に現れた都市の本質--闇の部分

 

赤霧島越しの飯沢耕太郎さん

まず飯沢さんは、新納さんの写真にあらわれる「暗部」に注目されました。ページを繰っていくと、吸い込まれそうな闇や、黒々とした影があることに気づきます。

都市を剥がしていった先に見えてきた「本質」が、ぽっかり空いた空虚な穴なのでしょうか。

新納さんはあとがきに、「社会の本質をさらけ出すために、嘘の仮面を剥ぎとり、社会という圧力によって水面下に追いやられた真実をすくい取るようにシャッターを押してきた」と書いています。

あなたは、この翳りを見てなにを感じますか?

●都市が「無国籍地」と化す

奈良原一高『無国籍地』

新納さんはこれまで、山谷、築地と個別的なテーマで都市風景を写真に収めてきました。今回はそれらの街を含めて対象を広くとり、「都市空間」との向き合い方を提示した写真集になっています。

今回写真集を作っていく過程で、「無国籍地」というキーワードをなんども新納さんから聞くことになりました。

「山谷、築地と無戸籍地の中ではわりかし意味のありそうな場所を撮ってきて思うのは、そこに現代の諸問題がさも集約されているように思われているが、都市の本質はそういう場所に閉じ込められているようで、実はこの広大な「無国籍地」に拡散し、我々のすぐ身近な所に埋もれているのである。ほんの少し身の回りの景色を剥がしてみるだけで、どこからでもその片鱗を発見することができる。」

上記は、もともと写真集のあとがき用に新納さんが書いた文章で、最終的に採用されなかったものです。

浪人生の時分、奈良原一高の写真集『人間の土地』を見て衝撃を受けたその日から、新納さんは写真家を志すようになりました。

彼がこだわる「無国籍地」という言葉は、もちろん奈良原一高の『無国籍地』という写真集が彼の頭の片隅にあったはずです。

この「無国籍地」が、新納さんの写真を読み解くキーワードになるのではないかと飯沢さんがおっしゃいました。

実在する都市の風景を撮っているはずなのに、現実世界にない仮想の都市空間が立ち上がってくるような、夢とうつつを行き来する写真。

『PEELING CITY』に通底する独特の浮遊感をぜひ体感していただければ幸いです。

 

●写真集 高梨豊『都市へ』を見る

高梨豊写真集『都市へ』

アサヒカメラの連載をまとめた別冊『東京人』には、高梨豊さんの手記の複写が収録されています。

その生々しい筆跡は、写真家の思考の痕跡をたどる何よりの資料であり、写真家の息遣いを感じさせる写真集の大事な要素のひとつになっていました。

新納さんも写真ノートを日課のようにつけていて、現在何十冊目だそうです。

この『都市へ』を囲みながら、そのノートをどうにか写真集に活かせないだろうか?というお話に。

そこから生まれたのが、今回の見返し部分です。どのような見返しになっているのが、皆さんの目でご覧いただければと思います。

 

●無意識から表出するものがホンモノである

ひととおり写真をご覧になったあと、「最近、この言葉に痺れたんだよ」と飯沢さんが手帳を見せてくださいました。

そこには、こんな言葉が書かれていました。

「無意識部から溢れるものでなければ 多く無力か詐欺である」

宮沢賢治/農民芸術概論綱要/1926

飯沢さんの手帳。隣のページの「人妻エロス」も気になります。

表現に関わっているすべての人が胸に留めておくべき言葉ではないでしょうか。

表現するということは、何よりも自分自身を「PEELING」することだと気付かされた一夜となりました。

この宮沢賢治の言葉を聞いたおかげか、新納さんの今回のあとがきは、しっかりと自分と向き合った素直な文章になりました。

ぜひ飯沢耕太郎さんのテキストと、新納さんのあとがきにどうぞご注目ください。

ウクレレの弾き語り♪(撮影:新納翔)

 

Fumi Sekine
Fumi Sekine プロフィール

ふげん社・ディレクター