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第4回 町歩きを楽しくする郷土研究 【山形県長井市、川西町】

2019.02.01

『長井のひとびと』第15集

長井市地域文化振興会 2001年

 

私が企画して、毎年1回、〈ふげん社〉で開催している「地域からの風」という展示がある。毎回、ひとつの地域を取り上げて、その地域で活動しているアーティストの作品をメインに、書籍や雑誌、フリーペーパーなどの出版物を展示販売するものだ。
7月4日から22日まで開催した 今年の「地域からの風」では、山形県置賜地方を取り上げた。置賜は「おきたま」と読むが、地元の人は「おいたま」と発音することが多い。県の南側にあって、米沢市を中心とする3市5町をその範囲とする。

Book! Book! Okitama 2017

私がはじめてこの地域を訪れたのは、2014年6月。前日に仙台の一箱古本市に参加していたのだが、打ち上げで一関の「ばったりたおれ屋」くんと話していると、翌朝、山形県で開催する「Book! Book! Okitama」(以下BBO)の一箱古本市に参加するというのだ。聞けば、その会場は作家・井上ひさしの蔵書をもとにした図書館〈遅筆堂文庫〉が入っている施設なのだとか。井上ひさしを愛読してきたので、遅筆堂文庫のことは知っていた。せっかくの機会だからと、ばったりくんに便乗して、イベント会場である〈川西町フレンドリープラザ〉に足を運んだ。
一箱古本市や紙モノ市はとても雰囲気がよく、遅筆堂文庫も見学できた。それがきっかけとなって、翌年には私も一箱古本市に出店し、トークをさせてもらった。以後、毎回参加している。

ふげん社の展示では、BBOのキャラクターを描いているmizutamaさんのコースターを展示するとともに、置賜や山形県に関する出版物を並べた。井上ひさし、イザベラ・バード、伊東忠太など、この地に関わりのある人に関する本が集まった。

そして、今年のBBOにも置賜へ出かけた。これまでは6月に行なってきたが、今年は「一箱古本市の日に芋煮を出したい!」というスタッフの熱意から、秋に開催することにし、その名も「読書と芋煮の日」をメインイベントとした。
私はその前日の「まち裏ガイドブックをつくってみよう!」というワークショップで、講師を務めた。この数年、各地で「ちいさな出版物の設計図をつくるワークショップ」をやってきたが、今回はそれを町歩きとくっつけてみた。長井の町を歩いて、参加者が見つけたテーマを記事にまとめるという趣向だ。

「長井まち歩きガイド」として活動している中村睦さん

長井市は置賜地方の北側にあり、映画『スウィングガールズ』に登場する山形鉄道フラワー長井線が走っている。私は昨年この鉄道に乗って終点まで行き、長井駅周辺もレンタサイクルで走っているが、それだけでこの町を知っているとはとても云えない。「長井まち歩きガイド」として活動している中村睦さんに先頭に立ってもらって、参加者と一緒に1時間ほど歩いた。中村さんは猫のように、裏道にすっと入り込み、ときどき立ち止まって、見るべきポイントを示してくれる。この日歩いた本町、栄町には古い水路が残っている。これらは江戸時代に張り巡らされたものだという。

その後、会場の〈春まちカフェ〉に戻り、各自が考えたテーマに沿って、記事のラフをつくる。10人が発表したが、それぞれの目の付けどころが面白く、盛り上がった。

駒屋

解散してから、スタッフの数人と、さっき歩いていて気になった〈駒屋〉という店に行ってみる。いまどき茅葺きの家で、表には「ひらき松たけ 入荷」「高原大根 おでん 始めました」「ふしぎな塩味ゆでたまご」などと書かれた紙が貼られている。飲食店なのだろうか?
中に入ると、テーブルと座敷があるが、上にはごちゃごちゃと荷物が置かれている。壁にはうどんやそばのメニューがあるから食堂らしいのだが、奥から出てきたおばちゃんは「あれはみんな出来ないよ」とおっしゃる。ご主人が亡くなってからは、食堂ではなく居酒屋として営業しているというのだ。かりんとうとか芋の菓子とか、さらには花とかが並べてあるのは、仕入れて売っているのだそうだ。
しかし、この感じ、どこかで見たような……と思っていたら、NHKのBSでやっていた「六角精児の呑み鉄本線」で訪れていたのだった。一筋縄ではいかない店が多く登場するあの番組にふさわしい。

フリーペーパー『ギャラリーJujiro』

楽しく飲んでいると、ひとりの男性が入ってきた。斜め向かいの〈梅村呉服店〉のご主人である梅村芳弘さんだ。BBOにも「よりみちブックイベント」という企画で参加されている。そこから昔の長井の話になり、同席者が「20年ぐらい前にそこの角にあった〈ギャラリー十字路〉の二階で、フリーペーパーを出していたと思うんだけど……」と云うと、それを聞いていたおばちゃんが、座敷の壁に貼ってあった紙(写真などが貼り付けてある)をおもむろに剥がしだす。ナニをやってんだと思ったら、その裏から取り出したのが、いま話に出た『ギャラリーJujiro』というフリーペーパーの束だったので、一同びっくりした。なんで、そんな場所に保管していたのか。

さらに梅村さんが、『長井のひとびと』という冊子も出ていたなと云いだし、店から持って来てくださる。2001年に発行された第15集で、特集は「さんぽ道 うら道 れきし道」。昼間に行なったワークショップにぴったりの内容ではないか。
「以前は販売していたけど、もう売ってないだろうね」と梅村さんはおっしゃっていたが、東京に戻って数日後、『長井のひとびと』第15集をどこからか見つけて送ってくださった。
「歩くからこそ見えてくる、さまざまなものにスポットをあててみた」という特集で、巻頭は、長井で1987年から行われている「一日八里(ひしてはぢり)」というイベントの参加者による座談会。老人から子どもまで参加して、1日に8里=32キロを歩くという。
口々に歩く楽しさを語るのだが、ひとりの発言の中に、(ほだほだ)(少しならいいげんどな)(オレもそうだ)などと合いの手が入るのが面白い。この一日八里は最近でも開催されているようだ。
「うらまち点描」という記事もいい。村上和雄という人が11のエリアを取り上げて、その風景や建物などの見どころを絵と文で紹介している。絵も書き文字も味があっていい。村上さんは地元の生き字引みたいな人だったそうだ。
郷土の歴史をまとめた冊子は各地で見かけるが、どうしても真面目すぎ、硬い内容になりがちだ。その点、この『長井のひとびと』は郷土の歴史を検証しながら、読み物としても成立させている。編集委員の中に、編集者的センスのある人がいたに違いない。
梅村さんはさらに、「まだ売っている店があったから」と『長井のひとびと』を送ってくださった。第12・13合併号の特集「おしっさま」(獅子舞)、第14集の特集「ながいを支えた かいこ 製糸 つむぎ」、第17集の特集「祭文うなり旅」の3冊。いずれも興味深いが、置賜地方で活動していた「祭文師」の思い出話を記録した第17集は貴重だろう。祭文は浪曲や講談のもとになったと云われる演芸だそうだ。
この『長井のひとびと』が、第何集まで発行されたか、いまは調べがつかない。ほかの集もいつか手にしてみたい。そして、バックナンバーを並べて長井の人たちと読み、それを手掛かりに町を歩いてみるというワークショップをやってみたい。
その日の打ち上げは、もちろん〈駒屋〉で決まりだ。

 

(文・写真 南陀楼綾繁)

南陀楼綾繁
南陀楼綾繁 プロフィール

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。

早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。

出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。

2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)などがある