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第5回 日曜市を歩く 【高知県高知市】

2019.02.01

『てくてく、お城下市 土佐の日曜市』秋冬編

高知市産業政策課 2009年

にこみちゃん

11月の初めに高知市に行った。これまで2回訪れているが、今回はたぶん県内ではじめてとなる一箱古本市が開催されるということで、そのゲストで呼んでもらったのだ。

琴平からの特急で高知駅に着いたのは、夜の九時ごろ。ホテルに荷物を置いて外に出る。軽く一杯飲むつもりで、前に友人に連れて行ってもらった〈にこみちゃん〉をめざす。閉店間際なので客は少なく、煮込みやもつ焼きを食べながら静かに飲む。

マスターに一箱古本市のチラシを見せていると、隣に座った男性が「それ、今日行ってきたよ」と云う。私は明日だけなのだが、今日と明日の二日開催なのだ。「いい本が多かったから、結構買っちゃった」と笑う。

 

ホテルに帰って眠り、7時ごろに起きる。すぐ近くに高知駅から続く電車通りがあり、蓮池町電停のある交差点を渡ると、その向こうの追手筋で「日曜市」がはじまっている。日曜市は明治時代からあり、何度か場所を変わったが、1948年から現在の場所で続いているという。

毎週日曜日の朝6時から夕方5時まで(春夏は5時から6時)、道路2車線分の1.3キロの左右に約500軒の屋台が並ぶのだ。常設ではなく、決まった日に開かれる市はいろいろ見たが、この日曜市は全国でも最大級だろう。とにかく、ずーっと先まで並んでいるのだ。すでにこの時間で、多くの客が見て回っている。

朝市に行くと、目につくものすべてが珍しいので、つい手前のほうで財布を開いてしまうのだが、そこで買ったのと同じモノが奥にある別の店でもっと安い値段で売られていることがある。しまった! と思うが、せいぜい数百円の違いでしかない。目についたときに買うのが楽しいのだ。

日曜市

野菜、果物、茶、漬物、魚、肉、花、米、パン、菓子、はちみつなどの食材から、陶器、刃物、玩具、骨董、植木、竹細工、盆栽などまで、じつにさまざまなモノが並ぶ。旅先では生ものは持って歩けないので、私が市場で買うものは、日持ちのするにんにくや唐辛子、漬物、あるいはその日のうちに食べる加工品に限られる。

鮮やかな赤い唐辛子がカゴに入って並んでいる屋台を眺めていたら、店のおばあさんが「これ、辛いぞ」と小さな唐辛子を渡してくれる。口に入れるとたしかに辛い。30本ほど入った唐辛子の束と、大きな生姜を買う。両方で300円だ。高知は日本一の生姜の産地だという。

朝飯にしようと、寿司の並ぶ屋台を覗く。のりまきやサバの姿ずしのほか、「タケノコすし」や「コンニャクすし」が目につく。あんまり見たことないぞ。ほかの屋台でも出しているので、この辺の名物なのだろう。買ってみる。

それにしても、寿司や餅を売っている店が多いのはなぜだろうと思っていたら、あとで古本市で買った本に答が書いてあった。

「日曜市には、出荷組合という組織があって、組合員として登録した者が、店を出しています。それで、年間通じて、場所割も決まっているわけです。その関係で、さいさい休みよったら、除名されるかもわかりません。それで、百姓がひまで荷のない埋め合わせに、すしを作ったり、もちをついたりして、持って来はじめたものですらあ」(窪田善太郎『日曜市物語』えんこう出版社)

なるほど。それでは、同じ屋台でも、季節によって売るものが違うのだ。

 

日曜市をやっている追手筋の裏に、帯屋町商店街のアーケードがあるのだが、数年前この一角にできたビルに地元の老舗書店〈金高堂〉が移転してきた。その郷土本コーナーで、『てくてく、お城下市 土佐の日曜市』というA4判のムックを買った。私が買ったのは「秋冬編」で、「春夏編」もあった。たいして内容は変わらないだろうと思っていたが、そういう話を聞くと、両方買っておくべきだったと悔やまれる。

このムック、おざなりなガイドブックではなく、100ページの中で、すべての屋台の業種を紹介し、出店者や客の表情をとらえ、ここで売られているモノの生産の現場を取材し、売っている品々を一覧にし、日曜市の歴史をたどっている。いまどきのしゃれたデザインではないが、読みやすく写真の配置に工夫を凝らしている。文章も宣伝臭くなくていい。編集プロダクションが制作したのだろうが、いかにも自治体がつくりましたという感じになってないので好感が持てる。

ひろめ市場

あとでこの本を眺めていたら、あの屋台にもこの屋台にも寄っておけばよかったという気持ちになる。このときはあまり時間もなかったので、一回りして、近くの〈ひろめ市場〉に入った。

ここは1998年にオープンした施設で、広大な建物の中に物産店や飲食店が入っている。どこで買ったものでも、場内のテーブルで自由に飲食できるのが特徴で、昼間から酒を飲んでいる客が多い。この日は日曜市にあわせてなのか、すでに営業している店があり、そこでうどんを買って、さっき買ったすしと一緒に食べる。当然のように、地元の酒「土佐の鶴」の小瓶も飲んだ。まだ朝9時なのだけど、周りもみんな飲んでるから平気だ。

高知市で初めての一箱古本市

ほろ酔いで、そこから5分ほどのはりまや橋商店街へ。アーケードの真ん中に30箱ほどが並ぶ。高知ではじめての一箱古本市なので、反応が心配だったが、店主さんもお客さんも楽しそうだった。午後からは、高知の山の上で本屋を営んでいる〈うずまき舎〉の村上千世さんと私のトークもあった。

箱を前に座っていると、さっき見た日曜市が思い浮かぶ。一箱古本市も「市」のひとつなのだと、あらためて思う。高知での一箱古本市が定着して、何十年後かに、毎週のように朝から開催される様子を妄想してみると、なんだか楽しくなった。

(文・写真 南陀楼綾繁)

南陀楼綾繁
南陀楼綾繁 プロフィール

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。

早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。

出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。

2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)などがある